
家づくりは、ほとんどの人にとって一生に一度の大きな買い物です。限られた予算の中で理想の家を建てるため、「どこを削ればコストを抑えられるのか?」と考えるのは当然のことです。しかし、住宅には“削ってもいいポイント”と“絶対に削るのはおススメできないポイント”が存在します。
ついつい、目先の金額だけを優先して選択をしてしまうと、住み始めてから「想定よりも光熱費が高い」と感じたり、「想定よりもメンテナンスのサイクルが早い」なんていうことが起きてしまったり、最悪の場合は「建物の安全性が損なわれてしまう」ということもあります。
つまり、誤ったコストダウンは「安物買いの銭失い」になる可能性が非常に高いのです。
本コラムでは、住宅会社の営業が家を建てるなら絶対にケチらない重要ポイント5つをご紹介していきます。
1. 水回り設備のコストダウンはしない!

光熱費・使い勝手・メンテナンス性まで大きく影響するキッチンや浴室、洗面台、トイレなどの水回りは、毎日必ず使う場所です。ここを安易にグレードダウンすると、住んでから「こんなはずじゃなかった…」と後悔しやすい部分でもあります。
■ 節水・節電機能の低い設備は長期的に損
- 節水トイレ
- 節水シャワーヘッド
- 断熱性の高いシステムバス
などといった部分は、光熱費に直結する仕様です。初期費用を少し抑えたことで満足しても、数年後には“高い水道代・電気代”として確実に跳ね返ってくるため、結果的に高くついてしまうことがあります。特にお風呂は「浴槽の保温性」が重要で、安価なモデルだとお湯が冷めやすく追い焚きが増える=電気代が上がるという悪循環に陥ってしまうことも。
■ 使い勝手・メンテナンス性も生活の質に直結
- 幅の狭い洗面台
- 傷つきやすい素材
- 汚れが落ちにくい排水構造
また、使い勝手やメンテナンス性などは、毎日の生活でストレスに感じてしまう原因になり得ます。水回りは生活者の生活満足度に直結する部位であり、妥協すると後悔しやすいポイントです。
もし、コストダウンをするなら「オプション」部分にして、基本的な性能や機能性は削らないのが鉄則です。
2. 断熱材のグレードダウンは絶対しない!

家の快適性を決める最重要項目の1つが「断熱」。ここをケチると、数十年続く電気代に大きく差が出るだけではなく、暑い家・寒い家になってしまうといった日々の暮らしの過ごしやすさにも直結する肝の部分です。
■ 断熱材をケチるとどうなる?
- エアコンや暖房器具に頼る回数が増えて電気代が高騰
- 室温が安定せず一年中、家のなかでも寒暖差を感じて不快に
- 安価な断熱材は劣化が早く、数十年後にメンテナンス費用が増える
上記の内容だけではなく、「冬は結露、夏は湿気」という住まいの劣化トラブルにもつながります。
■ 推奨は“断熱等級6”
最低でも断熱等級6を選びましょう。断熱性能は“家の燃費”をも左右します。みなさんも車を購入する際に、車の燃費が悪い車を選ばないのと同じように、家を選ぶ際も断熱性能を確認し、住み始めてからかかる家の燃費を想定して選んでください。
現在では、断熱性への注目度が高いことから「どこの住宅会社に行っても同じ断熱性能」に感じてしまうことがあるかもしれません。しかし、この断熱性能を上げた住まいでは、性能が高い故に注意しなければいけないポイントも多く、国の方向転換により断熱性能を引き上げたばかりのような住宅会社さんだと経験値が少なく、少々不安です。そのため、断熱性能の高い家づくりの実績のある会社もしくは、設計、施工管理、大工さん等といった、つくり手の職人さんたちが、そういった家づくりを手掛けていた会社に依頼すると安心です。
耐震性能のコストダウンは命に関わる重大事項

家の安全性に関わる部分を削るのは絶対にやらないようにしましょう。住まいの倒壊や火災は、起きてしまえば取り返しがつきません。
■ 耐震性能で削ってはいけない部分
- 耐震等級は3を取得
- 耐震性能の計算方法は最も厳しい「許容応力度計算」に基づいてされていること
これらは、地震発生時の家の強さに直結しています。耐震等級は1・2・3とありますが、そのなかでもやはり最高等級の3を取得することをおススメしています。さらに、耐震等級を導き出す方法にもいくつかありますが、もっとも厳しい計算をしている許容応力度計算で導き出されているものが安心です。
屋根・外壁のコストダウンは修繕費の増加につながる
屋根も外壁も、家全体を守る“鎧”のような役割を持っています。グレードを変更すると、いずれも面積が大きいため金銭的負担も大きくなりますが、ここを安価な素材にしてしまうと、雨風・紫外線の影響で劣化が進み、必ず後悔するポイントです。
■ 安価な屋根・外壁材のデメリット
- 劣化スピードが早い
- 汚れがつきやすく手入れが大変
- 雨漏りのリスクが増える
- 数十年後に貼り替えが必要
屋根や外壁のメンテナンスには、必ず足場の設置も必要になるため、メンテナンス費用が数百万円単位になります。この数百万円のメンテナンスが10年なのか、15年なのか、20年、30年なのかで、将来かかるメンテナンス費用が大きく変わってきます。そのため、多少高くてもメンテナンスが少なくすむ素材を選ぶことが、長期的に費用を抑えるためにおススメしている選択です。
5. 窓の断熱性能は絶対に下げない!
家の断熱性能は「壁」よりも「窓」の影響が圧倒的に大きいことをご存じでしょうか?
暑さ・寒さの6〜7割は窓から入るという事実もあることから、窓の断熱性能をケチると、家の快適性が大幅に落ちてしまうことが分かります。
■ 断熱性能の低い窓のデメリット
- 外気温の影響を受けやすい
- 室内が暑い・寒いになりやすい
- 結露が発生しやすい
- 結露によってカビやダニの発生リスクが高まる
- お手入れが大変になる
窓の性能を落とすと特にやっかいなのが、「結露」です。「結露」は住まいを確実に劣化させる問題で、放置すると窓枠の腐食やカビ問題、そして健康への悪影響へと発展してしまいます。せっかく断熱材にはこだわっても、窓から熱がどんどん逃げていってしまっては本末転倒です。窓の断熱性能を高めれば、暖かい・涼しいといった快適性だけではなく、「外からの音の侵入」や「家の音漏れ」を防ぐ効果があります。加えて、先述した「結露」の発生を抑制する効果もあり掃除の負担も減らしてくれます。
まとめ
家づくりで大切なのは、「安く建てること」ではなく “お金をかけるべきところにしっかり投資すること” です。設備や断熱、耐震、外装、窓といった“家の根幹”に関わる部分を妥協してしまうと、住み始めてからの光熱費・修繕費・快適性・安全性に大きな差が生まれ、結果的に高い買い物になってしまいます。一方で、適切な場所にしっかりコストをかけておけば、「快適で、安全で、維持費が安く、長く住み続けられる家」 を実現することができるとも考えられます。家づくりは、今だけではなく 未来の暮らし を育てていくプロジェクトです。建てて終わりではなく、“住んでからが本番”。最初の100万円を節約することより、20年後、30年後に安心して快適に暮らせるかどうかの方がよほど重要です。ぜひ今回の内容を参考に、「どこにお金をかけ、どこで調整するべきか」を見極めながら、後悔のない家づくりを進めてみてください。あなたの理想の住まいづくりが、賢く、そして安心できるものになりますように。
