家庭内事故のリスクが最も高くなるこの冬の時期。
暖房や石油ストーブを使っていても、家のなかがなかなか温まらない、といったご経験はありませんか?
そして、そんな「夏は暑くて、冬は寒い家」という日本の家の在り方が、当然のことだと考えている方も多いのではないでしょうか。しかし、冬でもエアコン一台のエネルギーで室内を快適に保ち、子どもが半袖短パンで過ごしている家は存在します。
それは「高断熱」・「高気密」住宅です。家づくりをされている方であれば一度は聞いたことがあるかもしれません。
本記事では、なぜ高断熱・高気密住宅が推奨されているのか。その理由の一つである「健康」との関わりについて、ご紹介をさせていただきます。
室内温度と健康
世界の室内温度の考え
室内温度を意識してご覧になったことはありますか?日本の家づくりでは、室内温度の規定はありません。そのため、早朝の冬季の室内温度が10℃程度しかないということもザラです。早朝は寒くて布団から出るのが億劫であるというのが、当然のように言われています。この日本の当たり前の家は、実は海外では認められていないことをご存じですか?
2006年イギリスは住宅法を改正
イギリスでは、「暖かい家は「人権」である」といった思想のもとに冬季の最低室温が定められています。基準を満たさない賃貸住宅は健康性・安全性の劣る住宅として行政より、改修・閉鎖・解体命令などが下されます。賃貸住宅を対象としているのは、富裕層に限らず多くの人々の住宅環境を改善しようという狙いがあります。
定められている最低室温は18℃。
なぜ、18℃に設定されているのか。それは、生活する室内温度が18℃未満になると健康へ影響を及ぼすということが分かっているからです。決して、イギリスだけが先進的な取り組みを行なっているわけではありません。
2018年世界保健機関(WHO)が住まいと健康に関するガイドラインを発表
人間の健康を一つの人権であると考え活動している世界保健機関(WHO)は2018年に「住まいと健康に関するガイドラインを発表」しており、そこに記載されている冬季の最低室温を18℃以上とすることを強く勧告しています。
では、18℃以下になるとどんな影響が起こるのでしょうか?
冬季の室内温度が18℃未満になると血圧上昇、循環器系疾患の恐れが高まり、16℃未満になると呼吸器系疾患に対する抵抗力が低下すると言われています。それゆえに、イギリスやWHOは冬季の室内温度18度以上を強く勧告しているのです。「子どもや高齢者にいたっては、もっと高い室内温度」を推奨しています。
では、日本で室内温度が18℃以上保てている家は、どれくらい存在していると思いますか?驚くべきことに、寒冷地であればあるほど冬季の室内温度は高く、北海道では室内温度が20℃あります。逆に関東圏のような温暖地域になると、イギリスでは認められていない改修の指示を受けるような18℃未満の家が当たり前のように存在しています。日本のモノづくりは素晴らしいですが、住宅の性能という部分に関しては諸外国と比較すると、「遅れてしまっている」のです。
日本の住宅性能の動き
2019年に国⼟交通省は
断熱改修等による⽣活空間の温熱環境の改善が、居住者の健康状況に与える効果について検 証するとともに、成果の普及啓発を通じて「健康・省エネ住宅」の整備を推進し、国⺠の健 康確保及び地域⽣活の発展を図る
ことを目的としたスマートウェルネス住宅等推進事業調査を実施します。
その調査では、
断熱改修を予定する住宅を対象として、改修前 後における、居住者の⾎圧や活動量等健康への 影響を検証
するという内容になっており、具体的に住宅の性能が健康状態にどのような影響を与えるのかが見えてきました。
以下、「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第6回報告会〜国⼟交通省スマートウェルネス住宅等推進事業調査による住環境政策に資する得られた知⾒・得られつつある知⾒〜」、「WHO 住まいと健康に関するガイドライン」、「住宅の温熱環境と健康の関連」の発表内容を参考に、一部引用し、室内環境が改善されたことによって、どのように健康に影響があったのかについて、ご紹介をさせていただきます。
住宅の室内環境の改善と健康への影響
1.室温と血圧の関係~断熱改修後に家庭血圧が有意に低下~
断熱改修前に1回、そして断熱改修後に1回測定を行った居住者と断熱改修せずに2回測定を行った居住者の血圧変化量を分析した結果、断熱改修後に 起床時の最高血圧が 3.5mmHg、最低血圧が 1.5mmHg低下が見られました。このことから、断熱改修による室温の上昇がその一因となっていることが分かります。
2.断熱改修の効果~暖かな住まいで健康診断の数値が良い~
年齢、性別、世帯所得、生活 習慣を調整した上でも、朝の居間室温が18℃以上の住宅に住む人に比べて、18℃未満の住宅に住む人の総コレステロール値が基準範囲を超える人が約2.6倍。また、心電図の異常所見のある人が約1.9倍。
3.入浴時のリスク~ヒートショック~
ヒートショックという言葉をご存じの方も多いのではないでしょうか?急激な温度変化が原因で、血圧や心拍数が急激に変動し、心臓や血管に負担かかかることで健康被害を引き起こす現象のことです。特に冬場、暖かい部屋から浴室への移動。暖かい部屋からトイレに移動したときに起こりやすいと言われています。ヒートショックが引き金となり、心筋梗塞や脳卒中などの命に関わる健康リスクを招くこともあります。
冷えた体を温めようと熱いお湯に長時間つかり、体温が高くなりすぎた時や、入浴中から急に立ち上がった時などに、脳への血流量減少により一過性の意識障害を起こす可能性があります。では、断熱改修前後でどのような変化が起きたのかというと断熱改修後に、居間と脱衣所 の室温が上昇した住宅では、 熱め・長めの危険入浴をする 人は有意に減少しています。
4.喘息との関連~高断熱住宅化で有病者が減少~
断熱性能と気密性能を高め、適切な換気をすることにより、室内の環境を整え、結露の発生を抑制することができます。結露の発生を抑制することができるということは、カビやダニの繁殖を抑えることができます。つまり、室内空気室の改善につながるため、カビの菌やダニの死骸等が空気中に舞って吸って体内へ取り入れるてしまうリスクを抑えることができ、アレルギー性の鼻炎や喘息等の疾病を改善することへ寄与することができます。
表からも、性能の高い家に転居したことによって健康状態の改善へ影響を与えていることが分かります。
まとめ
冷えは万病のもとということわざがあるように、人が生活をしていく住環境は健康と密接に関係しており、これから住んでいく家の性能が重要であるということが分かります。
日本は、近年の気候変動に伴い、2050年にカーボンニュートラルの実現に向け、「家の性能」についても言及されるようになりました。そして、有名になったのが住宅の性能を表わす「高断熱」「高気密」住宅です。いま日本では、ようやく「高断熱」「高気密」住宅の普及が促進されるようになって参りました。そのため、今まで「高断熱」・「高気密」住宅に関心のなかった住宅会社も急いで「高断熱」「高気密」住宅への取り組みを進めています。
そこで一つ、皆様にご紹介したいのが、
「高断熱」「高気密」住宅の実績がある職人さんや現場監督さんがいる会社を選択されることをお勧めいたします。「高断熱」「高気密」住宅は作りての腕の良し悪しで、計画地の数値の性能が発揮できるかが掛かっています。つまり、どんなに良い断熱材を使おうと作り手次第で、快適な住環境は損なわれてしまうのです。むしろ、中途半端な断熱性能と気密性能の家が結露やカビ、ダニの発生。不十分な換気性能による健康被害等といった危険が高いので、「作り手の人」の実績で判断するというのもポイントです。
最後までご拝読いただき、ありがとうございました。
本コラム参考資料